家庭的な施設に必要なもの~特別養護老人ホーム~【介護支援専門員試験2023年-問57】

家庭的な施設に必要なもの~特別養護老人ホーム~【介護支援専門員試験2023年-問57】 介護支援専門員試験

「家庭的な雰囲気」とはよく聞くけれど、具体的にどんな雰囲気が家庭的だと言えるの?

施設サービスや地域密着型サービスの運営基準に多く見られる「家庭的な雰囲気」とは、具体的に何を指すのでしょうか?

一言で言うと、「自宅の暮らしに限りなく近い雰囲気」のことです。

これと対極にあるのは「病院生活」です。

病院は治療が優先される場所なので、家庭的とは言いません。

特別養護老人ホーム(以下、「特養」)のような集団生活では、100%自宅での生活を再現するのは困難です。

運営基準においても、「100%完璧」は求められていません。

プライバシーが守られること、安心できる居場所があること、束縛されず自由に移動できるといったことなどが家庭的な雰囲気に該当します。

広義では、他入居者の方や地域との交流といった「社会との関わり」も含まれます。

この記事を読めば、特養が目指す「家庭的な雰囲気」とは何かが分かります。

老健で施設運営に携わった筆者が分かりやすく説明します。

ケアマネ試験対策として、ちょっとした読み物として、気軽にご覧ください。

問題と正答【2023年-問57】

ケアマネ試験の過去問から「家庭的な雰囲気」の意味を読み解きます。

問題を解いて、直後の正答で答え合わせをすることができます。

問題57 指定介護老人福祉施設について正しいものはどれか。3つ選べ。

1. 可能な限り、居宅での生活への復帰を念頭に置いて、入所者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるようにすることを目指さなければならない。

2. 家庭的な雰囲気を保つため、廊下幅は1.6m以下としなければならない。

3. 入所者が可能な限り離床して、食堂で食事を摂るよう支援しなければならない。

4. 常勤の生活相談員を配置しなければならない。

5. 食事の提供又は機能訓練に支障がない広さがあっても、食堂と機能訓練室を同一の場所とすることはできない。

1・3・4

解法のポイント

1.「その有する能力に応じ……」は介護保険法第1条に規定された決まり文句です。

2.特別養護老人ホームは車いす利用者が入所しています。車いす3台が同時にすれ違うことができる十分な廊下幅が必要です。

3.病院とは違ったケアが求められます。

4.利用定員によりますが、生活相談員は最低1人必要です。

5.十分な広さがあれば、機能訓練室で食事して良い?

「家庭的な雰囲気」は具体的実態ではなく基本方針である

根拠

特別養護老人ホームの運営基準に次のような規定があります。

特別養護老人ホームは、明るく家庭的な雰囲気を有し、地域や家庭との結び付きを重視した運営を行い、市町村(特別区を含む。以下同じ。)、老人の福祉を増進することを目的とする事業を行う者その他の保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者との密接な連携に努めなければならない。

平成十一年厚生省令第四十六号 特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準
2条4項

特養は「明るく」「家庭的な」雰囲気を理想とするのだな…

…ところで「家庭的」とは何でしょう?

上記の条文は特養を運営するに当たって、基本方針を掲げる部分です。

基本方針とは、「こんな特養が理想だな」という理念のようなものです。

つまり、「具体的に〇〇が家庭的だ」というものはありませんし、「こうしなければ家庭的ではない」という基準もありません。

基準を定める条文で基準がないというのは矛盾しています…

特養が目指す「家庭的な雰囲気」

筆者が「家庭的な雰囲気」を定義すると次の通りです。

自宅の暮らしに限りなく近い雰囲気

これと対極にあるのは「病院生活」です。

病院は治療が優先される場所なので、家庭的とは言いません。

特養のような集団生活では、100%自宅での生活を再現するのは困難です。

運営基準においても、「100%完璧」は求められていません。

よって、「限りなく近い」雰囲気であればOKなのです。

プライバシーが守られること、安心できる居場所があること、束縛されず自由に移動できるといったことなどが家庭的な雰囲気に該当します。

広義では、他入居者の方や地域との交流といった「社会との関わり」も含まれます。

家庭的な雰囲気が形成されているか?

介護保険がスタートしたときから家庭的な雰囲気で運営することが基本方針に定められていました。

しかし、プライバシー保護の観点で課題がありました。

かつて、4人部屋・2人部屋といった大部屋が普及していましたが、ユニット型が登場することにより、特養の個室化が進みました。

昔から存在する特養は大部屋を残していますが、近年では全室個室のユニット型特養も普及しています。

個室は差額料金が発生するため、「経済的に負担を強いる」という反対意見もありました。

これは老健の話になりますが…

筆者が従来型(大部屋と個室がある)老健で相談員をしていたとき、個室をお勧めすると、「もらっている年金額をオーバーしてしまう」という理由から、ご家族が難色を示すことが多かったです。

反対意見は今も変わらないのですが、昔に比べて拒否反応は和らいでいると実感します。

有料老人ホームを選択する方もいます。(意図せずやむを得ない場合もありますが。)

生活保護受給者の方も個室を利用しています。

国民が豊かになったのでしょうか???それもまた疑わしいです。

とにかく、個室利用に対するアレルギーがなくなっているように感じられます。

多床室から個室へハード面の整備が進むにつれて、「やむを得ず」個室を選択する傾向にあるのではないかと推測します。

ご家族は経済的負担を考慮するのですが、ご利用者は実際に利用してみて、どのような感想を持っているのでしょうか?

実際にご利用者の感想を聞くと、

  • 大部屋を好む理由は、「話し相手がいないから」「一人で寂しいから」
  • 個室を好む理由は、「人に見られなくて安心」「同室の方とケンカしないで済む」

話し相手がいなければ、リビングや食堂に出て誰かと一緒に過ごすことも選べます。

意見は様々ですが、

ご利用者の立場としては、どちらかというと大部屋よりも個室のほうが好まれているのかもしれません。

特養は、家庭的な雰囲気になるよう工夫しています。

  • 季節感を出すために廊下の壁に写真をかけます。
  • 食事では郷土料理を提供します。
  • 年中行事を行います。

ほかにも様々な取り組みがされています。

基本方針の趣旨は、「人としての生活ができるに配慮しなさい」ということ。

プライバシーが守られること、好きな時間に好きなことができる自由があること、社会的な交流ができること…

それが特養施設に求められる家庭的な雰囲気なのです。

「自宅の暮らしに限りなく近い雰囲気」であれば、その施設はきちんと運営されていると考えられます。

試験対策ではありませんが、特養の入所基準について、こちらをご覧ください。

医療体制について、特養と老健と比較しました。こちらの記事もご覧ください。

解説

改めて問題を解説します。

問題57 指定介護老人福祉施設について正しいものはどれか。3つ選べ。

1. 可能な限り、居宅での生活への復帰を念頭に置いて、入所者がその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるようにすることを目指さなければならない。

〇 正しい

実は、特養は「在宅復帰」も視野に入っています。

2. 家庭的な雰囲気を保つため、廊下幅は1.6m以下としなければならない。

× 誤り

車椅子利用者の方が多く入所している特養では、廊下幅を1.8m以上(中廊下の場合は2.7m以上)と広くしなければなりません。

※ 家庭的 = 小規模ではありません。

3. 入所者が可能な限り離床して、食堂で食事を摂るよう支援しなければならない。

〇 正しい

病院とは異なり、できる限り(強制ではありません)食堂で食事を摂れるように支援します。

4. 常勤の生活相談員を配置しなければならない。

〇 正しい

利用定員の規模に関わらず、生活相談員は必要です。

生活相談員は入退所手続きを行うほか、ご利用者ご家族からの相談を受けるため多忙です。

5. 食事の提供又は機能訓練に支障がない広さがあっても、食堂と機能訓練室を同一の場所とすることはできない。

× 誤り

食堂と機能訓練室を合わせて、「(利用定員) × (3㎡)」以上の広さが必要です。

食事とリハビリに支障がない広さが確保されるならば、機能訓練室で食事をすることは許されます。

正答 1・3・4

おさらい記事はこちら

以下のリンクから、お好きな記事へアプローチすることができます。

ぜひご活用ください。

まとめ

特養に求められる家庭的な雰囲気とは「自宅の暮らしに限りなく近い雰囲気」のことです。

特養のような集団生活では、100%自宅での生活を再現するのは困難です。

運営基準においても、「100%完璧」は求められていません。

プライバシーが守られること、安心できる居場所があること、束縛されず自由に移動できるといったことなどが家庭的な雰囲気に該当します。

広義では、他入居者の方や地域との交流といった「社会との関わり」も含まれます。

ケアマネになってから施設を探すとき、参考にしていただければ幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

タイトルとURLをコピーしました