小規模多機能型居宅介護は地域に定着しているか?【介護支援専門員試験2023年-問55】

小規模多機能型居宅介護は地域に定着しているか?【介護支援専門員試験2023年-問55】 介護支援専門員試験

小規模多機能型居宅介護は地域密着型サービスだよね。

どんな特徴や課題があるの?

小規模多機能型居宅介護(以下、「小多機」)は介護保険の地域密着型サービスに位置付けられています。

文字通り、地域で小規模運営されるのが主な特徴です。

通い・訪問・宿泊を組み合わせて、柔軟なサービスが受けられるのがメリットです。

現実的な課題も多くあります。

筆者が考える小多機の課題は次の通りです。

  • 対象者は限定的
  • 黒字経営が困難
  • 地域に定着していない

これらの課題を解決するには、国の政策のみならず、事業者による創意工夫が必要です。

この記事を読めば、小多機の特徴を理解することができます。

筆者は老健で勤務していたので、小多機の内部事情について詳しくありません。

介護業界にいた筆者から見た、小多機への所感をお伝えします。

ケアマネ試験対策として、読み物としてご活用ください。

問題と正答【2023年-問55】

問題55 介護保険における小規模多機能型居宅介護について正しいものはどれか。3つ選べ。

1. サテライト型ではない指定小規模多機能型居宅介護事業所の管理者は、介護支援専門員に小規模多機能型居宅介護計画の作成を担当させるものとする。

2. 養護老人ホームの入所者が、指定小規模多機能型居宅介護を利用することは想定されていない。

3. 登録定員は、12人以下としなければならない。

4. おおむね6月に1回以上、運営推進会議に活動状況を報告し、評価を受けなければならない。

5. 指定小規模多機能型居宅介護事業所は、住宅地又は住宅地と同程度に利用者の家族や地域住民との交流の機会が確保される地域にあるようにしなければならない。

1・2・5

解法のポイント

1.「サテライト型」とは何か?気になりますが、とりあえずスルーしましょう。

2.養護老人ホームは「特定施設入居者生活介護」という別名を持っています。

3.登録定員12人以下で経営が成り立つのか?

4.6か月に1階運営推進会議が必要なのは正しいし……正答なのでは??

5.小多機は地域密着型サービスです。

人員と運営

小多機の運営ルールはこちらです。

平成十八年厚生労働省令第三十四号 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(62条以下)

(外部リンク)

以下要約します。

小多機には利用者の定員があります。

登録できるのは29名までです。

この登録定員をもとに、通いや宿泊の1日当たり利用定員の上限が決められています。

訪問の場合は、1日当たり利用定員の上限はありません。

登場する職種(役職)は次の通りです。

  • 代表者
  • 管理者
  • 介護
  • 看護
  • 介護支援専門員

小多機のケアマネジャーになるためには、「認知症介護実践者研修」「小規模多機能型サービス等計画作成担当者研修」という2つの研修を修了する必要があります。

研修を受講するには実務経験が必要です。

また、研修修了後、小多機実務に就くことが前提となっている研修です。

どちらも「記念受講」する研修ではありません。

ケアマネ資格を取得して、一通りの実務経験を経て、本気で小多機へ就職を考えている方はぜひ受講しましょう。

登録定員に上限が設けられているため満員になることも多いです。規模を拡大する手段としてサテライトを設置することができます。

サテライトとは、支店のようなものです。

例えば、本店に部長という管理者がいて、近くの支店(サテライト)も統括するといった具合です。

サテライトの登録定員は18名に制限されていますが、その分スタッフの配置基準も緩やかです。業務に支障がなければ、サテライトに夜勤や看護職員を配置する必要はありません。

ケアプランは小多機配属のケアマネジャーが担当します。もしも、それまで居宅介護サービスのケアプランを担当していたケアマネジャーがいたら、交代となります。居宅ケアマネが小多機利用者のケアプランを作成することはできません。

地域密着型サービスでは、地域住民との話し合いの場を意図的に設けています。運営基準にも定められています。

(前略)…おおむね六月に一回以上、運営推進会議に対し活動状況を報告し、運営推進会議による評価を受けるとともに、運営推進会議から必要な要望、助言等を聴く機会を設けなければならない。

指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準
88条(34条1項を準用)

本問の選択肢4は運営推進会議に関する問題でしたが、条文を読む限り選択肢4に誤りは見つかりませんでした。強いて言えば、「運営推進会議から必要な要望、助言等を聴く機会を設けなければならない」という記述が足りない程度です。

これを誤りと言えるかどうか…

筆者は〇と解釈しましたが…公表された解答では×でした。

課題解決は運営側の力量にかかっている

前章は小多機の運営ルールについてお伝えしましたが、本章は余談です。

難しい話になるので、面倒な場合は読み飛ばしていただいて結構です。

地域密着型サービスである小多機は通い・訪問・宿泊を自由に組み合わせることができる勝手の良いサービスです。

筆者が利用者の立場だったら、最も利用したいサービスです。

しかし、現実的な課題も多くあります。

筆者が考える小多機の課題は次の通りです。

  • 対象者は限定的
  • 黒字経営が困難
  • 地域に定着していない

本章では小多機の課題と、これに対する筆者の考えをお伝えします。

なかには目を引くような取組みを実践し、実績を残してきた小多機事業所も数多くあることを前置きしたうえでお話しします。

結論から先に申し上げます…

小多機を立派なサービスにするのは、小多機事業所の力量次第です。

以下、小多機事業者が抱える課題を具体的に説明します。

課題Ⅰ 対象者は限定的

一見便利な小多機ですが、ご利用者がこのサービスに出会うまでに、どのような経路をたどるのでしょうか?

介護保険を利用する場合は、まずケアマネジャーを探すところから始めます。

市役所や病院、地域包括から入手した情報をもとに、ご家族などがたどり着くのは居宅ケアマネジャーでしょう。

しかし前章でお伝えした通り、居宅ケアマネジャーは小多機のケアプラン作成ができません。

居宅ケアマネは何とか居宅サービスを組み合わせて、小多機に近いサービスを提供することができてしまうのです。

結果、通所介護や訪問介護、短期入所など居宅サービスの利用者数が伸び、小多機の利用者数が停滞するということが起こります。

2021年の介護保険給付費に占める割合は、

  • 通所介護 11.9%
  • 訪問介護 9.8%
  • 短期入所 3.9%
  • 小多機  2.6%

※短期入所は「短期入所生活介護」の数値

圧倒的に居宅サービスが優勢です。

小多機の知名度もさることながら、小規模をウリにしている手前、規模拡大も難しいのが小多機の特徴です。

地域包括支援センターや病院MSWが小多機を必要としているご利用者へ紹介をしてもらえれば、この割合はもっと増えるのではないかと考えます。

課題Ⅱ 黒字経営が困難

登録定員は29人です。収入には上限があります。

その日その日で利用者数に見合う人数のスタッフを配置します。

ご利用者は「今日はデイに通うのは気が乗らないから、家に来てもらおうかな」と予定変更することも可能です。

ご利用者にとって便利なのですが、スタッフはスケジュール管理が大変です。

デイをキャンセルして、訪問に介護職員を振り向ける必要が出てきます。

スケジュール管理だけではありません。

小多機の利用料は1回あたりではなく、1月あたりの定額制です。

介護認定区分によって差があるものの、要介護1(約11万円)と要介護5(約28万円)を比較すると、1人1月あたり17万円の差があります。

あまりにも差が大きいのではないでしょうか?

小多機の登録者は要介護1と要介護2でおよそ半数を占めるので、要介護5×登録定員分の収入はまず見込めません。

サブスクなので、追加コストがかかっても利用料に転嫁することもできません。

重度のご利用者受け入れを推奨するなど、選別が行われる恐れがあります。

これは望ましくありません。

収支差率は改善しているというデータもありますが、実態と離れていて検証が不十分です。

国が料金設定をきちんと管理すべきだと考えます。

課題Ⅲ 地域に定着していない

地域密着型サービスは地域住民を交えて運営推進会議を開催します。

地域とのつながりを持つことが使命です。

しかし、実際にはホームの中だけで完結させるレクが多いのが実情ではないでしょうか?

高齢者は移動も大変ですから、支援するのも大変です。スタッフの方の気持ちも分かります。

ある事業所では、子供もママさんもご利用者と一緒に料理していると聞きます。

ある事業所では、ご利用者が「伊豆の温泉に行きたい」と言ったらスタッフが水着1着持って同行するという話も聞きます。

そんな熱意のある事業所もありますが、全ての事業所がその高いレベルに合わせるのは困難です。

地域住民の方は近隣にある小多機の活動を見て、どのような感想を持っているのでしょうか?

筆者は小多機の経験はないので偉そうなことは言えません…

ただ、傍観者として見たときに、小多機が地域に定着しているようには見えません。

事業所数も増加している現在、小多機に求められるサービスとは何かを考え直す時なのではないでしょうか。

前述した通り、すべての小多機事業者に当てはまる課題ではありません。

中には地域の方との触れ合いの場を見事に作り出し、地元に受け入れられている事業所も多々あります。

どのようにしたら小多機の知名度が上がり、多くの方に利用してもらえるか?

国の政策も重要ですが、それ以上に事業所運営の力量にかかっているのだと思います。

解説

ここまでご覧いただきありがとうございます。

長くなりましたが、問題に戻り改めて解説します。

問題55 介護保険における小規模多機能型居宅介護について正しいものはどれか。3つ選べ。

1. サテライト型ではない指定小規模多機能型居宅介護事業所の管理者は、介護支援専門員に小規模多機能型居宅介護計画の作成を担当させるものとする。

〇 正しい

小多機にケアマネジャーが配置されています。

管理者はケアマネジャーへケアプランの作成を命じます。

2. 養護老人ホームの入所者が、指定小規模多機能型居宅介護を利用することは想定されていない。

〇 正しい

小多機に登録すると、原則として他の介護保険サービスを利用することはできません。

※ 一部例外はあります。

3. 登録定員は、12人以下としなければならない。

× 誤り

正しくは29人以下です。

4. おおむね6月に1回以上、運営推進会議に活動状況を報告し、評価を受けなければならない。

× 誤り

報告・評価だけでは足りず、「必要な要望、助言等を聴く機会を設けなければならない」と決められています。

5. 指定小規模多機能型居宅介護事業所は、住宅地又は住宅地と同程度に利用者の家族や地域住民との交流の機会が確保される地域にあるようにしなければならない。

〇 正しい

地域密着型サービスである小多機は、地域住民に対してオープンにしておかなければなりません。

正答 1・2・5

おさらい記事はこちら

以下のリンクから、お好きな記事へアプローチすることができます。

ぜひご活用ください。

まとめ

小多機についてお伝えしました。

小多機は文字通り、地域で小規模運営されるのが主な特徴です。

通い・訪問・宿泊を組み合わせて、柔軟なサービスが受けられるのがメリットです。

現実的な課題も多くあります。

筆者が考える小多機の課題は次の通りです。

  • 対象者は限定的
  • 黒字経営が困難
  • 地域に定着していない

小多機が地域密着型サービスとして定着するには、事業者による創意工夫が必要です。

この記事が試験対策や実務の一助になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

タイトルとURLをコピーしました