高齢者に対する虐待の罪は重いの?
高齢者に対する虐待は刑事罰の対象です。
傷害罪や致死傷罪などの罪で、介護者個人が訴えられることがあります。
介護職など職業として勤務している方が、ご利用者へ虐待行為を行った場合はどうなるでしょうか?
刑事罰を受けるだけではなく、場合によっては就業先の就業規則に基づき解雇され、勤務を続けられない恐れがあります。
ご利用者またはそのご家族から損害賠償責任訴訟を提起される場合もあります。
その相手は職員、施設、あるいは両者…
施設が最も厳しいと感じるのは、都道府県による虐待事実の「公表」です。
公表は厳密に言うと罰ではありません。
虐待の事実が周知されることにより利用者数の減少は避けられません。
公表は施設運営に大きな影響を与える戒めです。
人権を侵害する虐待行為は決して許されません。
一方、高齢者虐待防止法は高齢者だけではなく、家族の介護者を守るための法律でもあります。
虐待に発展する前に、予防することがその趣旨です。
すべての国民は虐待を発見したら、市町村の高齢者担当窓口へ通報しなければなりません。
ケアマネ試験では虐待に関する問題が出題されますが、基本的な事柄を理解すれば正解できます。
この記事を読めば、高齢者虐待防止法の目的や内容について理解することができます。
虐待について改めて知識を深めたい実務者の方にもオススメの記事です。
老健の運営管理をしてきた筆者が分かりやすくお伝えします。
問題と正答【2023年-問59】
ケアマネ試験の問題を1つ解いてみます。
よろしければ、トライしてください。
問題の直後に正答を記載しています。
解説のみご覧になりたい方は、本章を読み飛ばしても結構です。
問題59 高齢者虐待防止法について正しいものはどれか。3つ選べ。
1. 「高齢者」とは、75歳以上の者をいう。
2. 養護者が高齢者本人の財産を不当に処分することは、経済的虐待に該当する。
3. 養護者が高齢者に対して著しく拒絶的な対応をすることは、心理的虐待に該当しない。
4. 要介護施設には介護老人保健施設も含まれる。
5. 都道府県知事は、毎年度、要介護施設従事者等による高齢者虐待の状況等について公表するものとする。
2・4・5
高齢者と養護者を守る法律
高齢者の虐待に関する法律に、「高齢者虐待防止法」があります。
高齢者虐待防止法は略称です。
正式名称は「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」です。
正式名称から分かる通り、高齢者だけではなく、養護者を守ることを規定しています。
ここで言う「養護者」は同居して介護をしているご家族を指します。
職業として介護をしている職員は、「養護者」に含まれないことに注意が必要です。
虐待の種類は次の通りです。
虐待防止のため、成年後見制度の利用促進も規定しています。
成年後見制度について、こちらもご覧ください。
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違反するとどうなる?
高齢者虐待防止法に定める罰則の数は、実はそれほど多くありません。
- 市町村から委託を受けて事務を行う者が、通報内容などの秘密を外部へ漏らすこと(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)
- 市町村職員による立ち入り調査の拒否・虚偽答弁など(30万円以下の罰金)
大した罰則はないじゃないか!と思われるかもしれませんが、そうではありません。
他の法律で厳罰に処されます。
罪は重いです。
まず、養護者や介護職員が加害者と判明すれば、刑事罰が科されます。
傷害罪や致死傷罪といった刑罰は、裁判所で刑事訴訟となります。
被害者のご家族が施設職員に対して、民事裁判を提起することもあります。
あるいは介護職員の就労先施設、その代表者を訴えることもあります。
加害者となった介護職員は、施設から解雇され、働くことができなくなる恐れがあります。
最も厳しい戒めは「公表」
個人や施設に対する刑事罰、民事訴訟があるだけで非常にリスクなのですが、それだけではありません。
高齢者虐待防止法では25条に次のような規定があります。
都道府県知事は、毎年度、養介護施設従事者等による高齢者虐待の状況、養介護施設従事者等による高齢者虐待があった場合にとった措置その他厚生労働省令で定める事項を公表するものとする。
高齢者虐待防止法25条
誰でも、どの施設で虐待があったか調べることができます。
利用者側は施設選びの参考にすることができて便利です。
一方、施設側は虐待の事実が公表された場合、施設の名前に傷がつき利用者が減少する恐れがあります。
施設側にとって公表されることは、その後の運営に大きな打撃を受けることになります。
最も恐ろしい戒めは、「公表」なのです。
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解説
高齢者虐待防止法について学習したところで、改めて先ほどの問題を解きます。
各選択肢に解説を記載しています。
問題59 高齢者虐待防止法について正しいものはどれか。3つ選べ。
1. 「高齢者」とは、75歳以上の者をいう。
× 誤り
「65歳以上」が高齢者です。
2. 養護者が高齢者本人の財産を不当に処分することは、経済的虐待に該当する。
〇 正しい
高齢者のお金を介護者のために使ってしまう行為は経済的虐待です。
高齢者虐待防止法は成年後見制度の利用を促進しています。
3. 養護者が高齢者に対して著しく拒絶的な対応をすることは、心理的虐待に該当しない。
× 誤り
拒絶的な対応は「心理的虐待」と「ネグレクト(放置)」に該当します。
4. 要介護施設には介護老人保健施設も含まれる。
〇 正しい
介護老人保健施設は介護保険法に定める「施設」です。
5. 都道府県知事は、毎年度、要介護施設従事者等による高齢者虐待の状況等について公表するものとする。
〇 正しい
高齢者虐待防止法25条に規定されています。
虐待に対する最も厳しい戒めは「公表」です。
正答 2・4・5
おさらい記事はこちら
以下のリンクから、お好きな記事へアプローチすることができます。
ぜひご活用ください。
まとめ
高齢者虐待防止法をケアマネ試験の過去問を通じて解説しました。
高齢者に対する虐待は刑事罰の対象です。
場合によっては就業先の就業規則に基づき解雇され、勤務を続けられない恐れがあります。
ご利用者またはそのご家族から賠償責任訴訟を提起される場合もあります。
施設が最も厳しいと感じるのは、都道府県による虐待事実の「公表」です。
公表は施設運営に大きな影響を与える戒めです。
一方、高齢者虐待防止法は高齢者だけではなく、家族の介護者を守るための法律でもあります。
虐待に発展する前に予防することが趣旨です。
すべての国民は虐待を発見したら、市町村の高齢者担当窓口へ通報する義務があります。
これら重要事項を押さえておけば、ケアマネ試験や実務でも虐待の基本的知識が役に立ちますね。
最後までお読みいただきありがとうございました。